新潟市より東に約50km、かつて新潟と会津を結ぶ川港として栄えた阿賀町津川において、町のシンボルでもある名峰「麒麟山」を名にもつ酒蔵。創業は天保14年(1843年)。仕込水は極めてミネラル分の少ない軟水である常浪川(とこなみがわ)の伏流水を使用し、すっきりとした辛口の酒を造っている。
麒麟山酒造のこだわりは辛口にある。先々代、五代目の斉藤徳男様が、飲み続けても飽きのこないすっきりとした辛口を好み、「酒とは辛いもの」と創られた思想を今もなお「麒麟山」の原点において、淡麗辛口にこだわった酒を醸し続けている。
時代や、その時々のブームに流されず変化することのない、麒麟山酒造伝統の淡麗辛口の味わいが「麒麟山 伝統辛口」として、今もなお新潟県下越地区を中心に広く親しまれている。
伝統の継承、そして阿賀町津川の豊かな自然環境を未来へつなぐための活動にも余念がない。
水資源保護を目的として、常浪川源流を有する近隣の山々の森林再生活動に積極的に取り組んでいる。
また、酒造りに欠かせない米も、全量阿賀町産栽培を目標に立て挑戦している。
1995年、地元農家の方々とともに「奥阿賀酒米研究会」という組織を立ち上げ、2011年には社内に酒米作りを専門とする「アグリ事業部」を設立した。これらの活動を中心に、地元農家の方々と積極的にコミュニケーションをはかって、阿賀町での酒米栽培を促進している。
以前は原料米全体の30%程度であった阿賀町産の酒米が、2015年は70%以上に達する見込みである。
「その土地で育まれた米と水を使い、その土地で醸され、その土地の人々の生活に寄り添う酒=“地酒”」という想いを根底に、地元に深く根付く蔵元を目指す。
長谷川杜氏曰く、数ある銘柄の中で特に造りが難しいのが、定番普通酒である伝統辛口、そして超辛口(麟辛)であるという。すっきりとした味わいにするために、通常より温度を低温に保って醸し、醸造に長い期間を要する。手間隙をかける分、日本酒度と酸度、アミノ酸の絶妙なバランスがとれ、すっきりとした中にもあとを引く旨味、キレのある味わいとなっている。
伝統辛口、超辛口(麟辛)は普通酒でありながら、普通酒のイメージを変えるほどの徹底した管理のもと製造、出荷されている。蔵を訪れると、杜氏を中心とした蔵人たちの、きめ細やかな酒の管理とその熱意に、麒麟山がこれだけ新潟で定番酒として親しまれている所以を感じることができる。
酒造りも仕事も、目に見えない要素が実は大変重要なことが往々にしてある。その目に見えないことを、目に見える結果になるまで追求するということが大事とおっしゃる。
例えば麒麟山酒造では今、非常に蔵を清潔に保つということを実践している。清潔に保つのは一見当たり前のことだが、例えば、麹室。麹室だから麹臭くて当たり前という「常識」があるが、清潔さを追求した結果、臭いはほとんどしなくなったという。結果となって表れた今では、皆が当然の仕事として行うようになり、結果蔵全体の清潔さへ繋がったという。常に清潔な環境で酒造りを行うことが当然酒質の安定に繋がっている。
目に見えないからと言って、考えない、感じないことは非常にもったいない。いろいろなことを敏感に感じ、考えて行動に移してみることが大事だという。行動してみることで、それが目に見える結果に繋がるかもしれない。
~銘酒造りは先ず人の和からはじめよう~
阿賀町津川、そして麒麟山酒造を訪れると、人、街、自然、全てがひとつとなって生きていることを感じることができる。
自然の恵みを享受し、それを守り、そして未来へと繋げていく。おそらくこれが、地酒の本来あるべき姿なのだろう。
今日も、麒麟山酒造は阿賀町津川そのものと向き合い、阿賀町津川とともに酒造りを続けている。
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